「かしわ」と鳥肉のことを呼ぶのは西日本が多い。日本在来種の鶏が総称として普及したが地域性がある

「かしわ蕎麦」とか「かしわうどん」と言うように鶏肉のことを「かしわ」と呼ぶ人がいます。実はこれ地域性があって西日本の人が多いのです。その背景についてみていきます。

鶏肉のことを「かしわ」と呼ぶのは主に西日本。日本在来種の鶏が茶褐色だったことから柏にかけて呼ばれ、総称となった

「かしわ蕎麦ひとつ!」なんて台詞を聞いたことはないでしょうか。この「かしわ」とは鶏肉(鶏)のことを意味しているもので、かしわ蕎麦は鶏肉の入った蕎麦のことになります。

実はこの「かしわ」という言葉には地域性があります。当たり前に使っていて「え!全国じゃないの?」という方や、「初めて聞いた」という方もいるはずです。今回はこのかしわについての由来などについてみていきます。

かしわは「黄鶏」と書く。本来は羽根が茶褐色の色の鶏のことだった

まずは由来について。鶏のこと総じて「かしわ」と呼ぶことがありますが、もともとかしわ自体は全ての鶏を指して使う言葉ではありませんでした。

一般的に鶏というと真っ白なものをイメージする方が多いと思いますが、日本在来種の鶏(和鶏)は羽根が茶褐色のものなのです。例えば現在でも地鶏として有名な「名古屋コーチン」などはその典型的なもので、羽根が茶褐色ですよね。

この茶褐色の羽根色と、柏餅などに使われる柏の葉の色が似ているということから、和鶏をかしわと呼ぶようになりました。

現在でも羽根が茶褐色の鶏のことを漢字で「黄鶏」と書き、この読み方は「かしわ」です。

このかしわという呼びかたは最初は茶褐色の鶏に限定されたものでしたが、月日が経つうちに広く鶏肉一般の総称として用いられるようになったとするのが有力な説とされています。

「かしわ」と呼ぶのは西日本が多い。江戸時代の文献には江戸近郊ではしゃもの方が好まれていたとある。闘鶏文化の差が影響したか

引用元:j-town.net

しかし鶏のことをかしわと呼ぶのは、実は全国区ではありません

Jタウンネット調べの調査によると、約2/3の人が鶏肉のことを「かしわ」と呼んでいることがわかります。ただし、着目して欲しいのは見事に東日本と西日本で分かれているという点です。

日本全国から人が集中することもあって東京都ではかしわと呼ぶ人の方が多かったですが、東日本ほとんどの地域で鶏肉=かしわが浸透していないのです。

だからといって「かしわ」が方言なのかというとあまりに範囲が広すぎますからそうでもありません。この理由も様々な説があるようですが、江戸時代の文献にヒントがありました。

江戸時代の文献「守貞謾稿」にも「江戸はしやも」という記述があった

遡ること江戸時代、当時の江戸では鶏肉といったら「しゃも」の方がメジャーだったそうです。

軍鶏(しゃも)は江戸時代初期にタイから伝わった品種で、オスの闘争心が非常に強いことで知られています。そのことから、鶏同士を戦わせる闘鶏(とうけい)は賭博の手段として普及していました。

賭博が禁止されると闘鶏も下火になりましたが、しゃもは食肉としても美味であったため、飼育は続けられました。

江戸(現在の東京)では黄鶏より軍鶏の方が好まれていたことは江戸時代の文献である「守貞謾稿(もりさだまんこう)」からも見てとれます。

守貞謾稿は喜田川守貞による三都(江戸・大坂・京都)の行事や風俗について記した一種の百科事典のこと。

守貞謾稿には、

文化以来、京坂はかしわと云鶏を葱鍋に烹て食す事専也、江戸はしゃもと云闘鶏を同製にして売之

このように記されており、江戸やその近郊ではしゃもの方が広く食されていたことがわかります。江戸時代の時点で既に鳥肉の食文化が東西でわかれていた事が、今日にも続いているというわけですね。

闘鶏が盛んだったことも影響している?鳥肉と言えば西は「かしわ」、東は「しゃも」

恐らく江戸で軍鶏の方が普及していたのは、闘鶏の文化が盛んだったこともあるのかもしれません。いわば博打が盛んだったと言い換えられます。

こういった背景から元々は闘鶏用だったしゃもが増えていき、その後も食肉用として繁殖されたということが関東圏では鳥肉=しゃもという構図になり、かしわという呼び方が浸透しなかった原因でもあったのでしょう。

食肉の名前に植物の名前を付ける例は他にもある。さくら、もみじ、ぼたん、直接肉と言わない風情のある日本語だ

かしわに限らず、食用肉に対して植物由来の別名を付ける習慣が日本にはあります。

例えば馬肉のことを「桜(さくら)」、猪の肉を「牡丹(ぼたん)」、鹿の肉を「紅葉(もみじ)」と呼びます。

このようにストレートに何々の肉、という呼び方ではなく、肉の色合いなどに似た植物の名前で呼ぶことは日本では古くから行われてきました。もともと肉を食するのが一般的ではなかった日本ならではのことなのかもしれません。

食肉を禁じられていたから隠語として使われていたなどの説も色々ありますが、四季によって様々な美しい色を持つ木々や花々になぞらえて呼ぶこの文化は実に風情があって良いものだと思います。

かしわも当然その1つです。こうしてみると日本の食文化や背景を映し出した語句であると言えますから、鳥肉のことをかしわと呼ぶのも納得がいくと思います。

普段鳥肉のことをかしわと呼ばない方も、ぜひ何かの機会に「かしわ」と使ってみてはいかがでしょうか!

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